海外ではパリ~ニースがすでに過ぎ去り、ミラノサンレモ、ヘント~ウェヴェルヘム、パリ~ルーベと華やかなワンデーレースが開催。そして、ジロ、ツールと、1年で最も自転車界が賑わうシーズンが到来しました。そんな中、強豪中の強豪・Team Skyが揺れています。渦中にあるのは、サー・ブラドリー・ウィギンスと“ミステリーバッグ”。何がそんなにスカイを動揺させているのか、現在も進行中の騒動を追いかけます。
ことの発端はWADAの情報漏洩によるウィギンスのTUE使用
さて、まずはことの発端について。覚えてますでしょうか? 去年(2016年)の9月、WADA(世界アンチ・ドーピング機関)がハッキングされて、そこから情報が漏れだしたことを(; ・`д・´)
TUE使用者のリストにウィギンスとフルームの名が
WADAのデータベースに不正に侵入したのはロシアのハッカー「Fancy Bear」と言われています。んで、そこから漏洩したデータの中にTUE(治療使用特例)使用者のリストが含まれていました。そのリストにはツール覇者のウィギンスとフルームの名前が載っていました。
TUEの使用自体は問題ではない
TUEとは、通常はドーピングに抵触する薬物だけれど、特別に使用が認められた薬物のこと。つまり、しっかり手続してTUEの使用の許可を得ていれば、TUE使用者のリストに名前が載っていたからと言って、何も問題ありません。
TUEとは、「治療使用特例」のこと。禁止物質や禁止方法であっても、事前に所定の手続きによってTUEが認められれば、例外的に使用することができるんです。ただ、TUEが承認されていなければ、医療上の理由でも禁止物質・禁止方法を使用できません。もし、使用してしまうと「アンチ・ドーピング規則違反」と判断されることがあるので、下記の承認条件を確認したうえで、十分注意して手続きを行ってください。
問題になっているのはTriamcinolone(トリアムシノロン)か
WADAの情報漏洩で広く知れわたったウィギンスとフルームのTUE使用。ただ、TUEは「厳格」に管理されており、責められるべきはハッカーと情報を漏洩させたWADA・・・のはずでした(; ・`д・´)
フルームは喘息、ウィギンスは花粉症でTUEを使用
そもそも、リストに載っていた2人は何のためにTUEを使ったのでしょう? 『Cycling News』によりますと、フルームは喘息の治療として「corticosteroid prednisolone(プレドニゾロン:ステロイド系抗炎症薬)」を2013年5月21日(経口摂取、40mg/粒・1日1回・5日間)と2014年4月27日(経口摂取、40mg/粒・1日1回・7日間)に使用。
一方のウィギンスは花粉症の治療として2008年から2013年までTUEを使用。使用薬物はSalbutamol(サルブタモール:気管支けいれんの緩和として)、Formoterol(ホルモテロール:気管支喘息やCOPDなどの治療薬)、Budesonide(ブデソニド:ステロイド系抗炎症薬)、Triamcinolone acetonide(トリアムシノロンアセトニド:アレルギー治療薬)と、ちょっと多岐に渡っています。
Triamcinolone(トリアムシノロン)に疑惑の目が
ここでちょっと問題になっているのがTriamcinolone(トリアムシノロン)です。ウィギンスはこれを2011年から13年まで注射で使用したようで、トリアムシノロンの使用方法としても(当時では)特におかしなことはありません。だがしかし、専門家や、過去にトリアムシノロンを使ったドーピング経験者は、ウィギンスのトリアムシノロンに疑いの眼差しのようです。
“If you look solely at the pattern of the TUEs of Bradley Wiggins then you would say that this looks very suspicious. It’s something that a rider would do if he wants to perform well in a Grand Tour, something that I would do, something that I did,” former Danish rider Michael Rasmussen told the BBC Newsnight programme.
〔抄訳〕「ウィギンスのTUEを見ると、何だかとてもアヤシイ。ツールで良いパフォーマンスを出したい選手がやるような行為だ。実際、僕もやったことだしね」と、デンマーク人の元自転車選手ミカエル・ラスムッセンはBBCのニュース番組で話した。
出典:Wiggins says he didn’t take triamcinolone to gain an unfair advantage
TUE騒動がチームSKY全体に飛び火
物議を醸しているウィギンスのTUE騒動ですが、話は個人の問題では収まりませんでした(;´Д`)
TUEに対してダブルスタンダードなSKY
まず問題になったのが、TUEに対するチームSKYのダブルスタンダード的な態度。対外的にはTUEの使用を避けることを公言していたチームSKYですが、その実、ウィギンスやフルームを筆頭に7年間で13回のTUE使用を申請(実際に使用)したことがヤリ玉にあがりました。ただ、7年間13回(平均約2回/年)という回数が他チームと比べて特別に多いのか少ないのか、多寡が問題ではないかもしれませんが、比較した情報は見つけられませんでした。
遂に登場! 謎の「ジフィーバッグ」
一度疑惑の目が向けられたら、いろいろ根ほり葉ほりされるもの。そして、突っついた先に何かが引っかかってしまいました。それが「謎のジフィーバッグ(クッションが入った封筒)」です。2011年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ最終日、Simon Cope(サイモン・コープ)がチームSKYのリチャード・フリーマン医師に「謎のジフィーバッグ」を届けたことが暴露されたのです。「謎のジフィーバッグ」の記事が出たのは、2016年10月6日付の『Daily Mail』でした。
■Daily Mail
EXCLUSIVE: Wiggins and Team Sky at centre of drugs probe amid allegation of wrongdoing ahead of 2011 Tour
TUEから一転、ドーピング疑惑に
「謎のジフィーバッグ」の存在が明らかになると、話はTUEから一転。イギリス議会が絡む大事に発展しました。
SKY監督のデイブ・ブレイルスフォードが参考人として招致
2016年10月、英国下院の「文化・メディア・スポーツ特別委員会(CMS)」がSKYへの質問事項を取りまとめ。同年12月にSKYゼネラルマネージャーのデイブ・ブレイルスフォードが参考人として招致され、「謎のジフィーバッグ」について質問されました。それ以前は「謎のジフィーバッグ」について答えることを拒否していたブレイルスフォードは議会の証言でバッグの中身に言及。ウィギンスに届けられたのは「Fluimucil(アセチルシステイン)」だったことを明らかにしました。
ブレイルスフォードがもみ消しを図った!?
「Fluimucil(アセチルシステイン)」は、「痰や膿の粘りをとり、排出しやすくする効果があるため、上気道炎、気管支炎、喘息などの去痰に使用」される薬で、実はWADAが定める禁止薬物ではありません。それにもかかわらず、ブレイルスフォードは記事のもみ消しを図った(そして失敗した)というニュースが出回りました。ジャーナリストのMatt Lawton(マット・ロートン)に働きかけを行ったんだとか(;´Д`)
Lawton writes in Tuesday’s Daily Mail: “This newspaper is obliged to reveal the lengths Brailsford went to in an attempt to kill a story he feared could mark ‘the end of Team Sky’.”
“First came the offer of an alternative, more positive story. Then possibly a story about a rival team winning races with Therapeutic Use Exemptions (TUEs) — something he did not reveal in the end. And at the end of the two-and-a-half-hour meeting, Brailsford asked if there was ‘anything else that could be done?'”
〔抄訳〕ロートンは火曜日付けの『Daily Mail』で次のように語った。「ブレイルスフォードは、(もし明るみになると)“チームSKYの最後になる”と恐れていたストーリーをもみ消そうと画策していた。最初はもっとポジティブな別の話を提供しようとした。その次は、TUEを使って勝利を収めようとしたライバルチーム(そのチームがどこか、ブレイルスフォードは明かさなかった)の話。最後は2時間半のミーティングで直接“他に何かできることはないのか?”という働きかけを彼自身がしてきたのだ」
出典:Daily Mail claims Brailsford tried to ‘kill’ the mystery package story
チームSKYは空中分解するのか?
TUEから端を発し「謎のジフィーバッグ」が明るみに出て、さらに(禁止薬物でないはずなのに)もみ消しまで図ろうとしたブレイルスフォードは当然、批難轟々アメアラレ。SKYの功労者だったブレイルスフォードをチームはサポートしようとするのだが・・・。
チームメートがブレイルスフォードの支持・不支持で分裂
2016年12月、チームSKYはブレイルスフォードを擁護する声明を発表。選手もブレイルスフォードの支持を表明・・・するかと思いきや、肝心要のフルームがなんと支持の表明を保留(゚Д゚;) SKYで最も大事な人のサポートがなければ、ブレイルスフォードの立場は非常に危ういものになってしまいます。
フルーム、支持を表明でSKY分裂は回避か?
そんなフルームが重い口を開いてブレイルスフォードの支持を表明したのは、つい最近、3月13日のこと。ウィギンスがCMSに参考人として招致されないことが明らかになり、SKYがCMSに対し、公式に謝罪文を送付したあとのことでした。フルームは以下のような声明を発表しています。
“With respect to Dave Brailsford, he has created one of the best sports teams in the world. Without Dave B, there is no Team Sky,” said Froome in his statement.
“He has supported me throughout the last seven years of my career and I couldn’t be more grateful for the opportunities and the experiences I’ve had. By his own admission, mistakes have been made, but protocols have been put in place to ensure that those same mistakes will not be made again.”
[抄訳] デイブは世界屈指のチームをつくった。彼なくしてチームSKYはあり得ない。デイブは僕の7年間のキャリアをずっと支えてくれた。今まで持てたチャンスと経験に本当に感謝している。彼の許可のもとで間違いが起きてしまった。でも、同じ間違いを繰り返さないための仕組みが今はしっかりできあがっている。
出典:Froome breaks silence and backs beleaguered Brailsford
以上、TUEから端を発した2016年10月~2017年3月までのチームSKYのゴタゴタを駆け足で追ってきました。実はまだ調査は終了しておりません。よもやまさか変な事実が出てきませんように・・・。事実を追いかけたタイムラインは、以下のサイトのまとめ(英語)が参考になりますです。
■チームSKYのTUE騒動タイムラインまとめ
Everything you need to know about the British Cycling/Sky mystery package sagaTimeline of UKAD investigation into Team Sky and British Cycling
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